between
-connection in sensory space-

2018.01
ARTZONE, kyoto
『between』
『between』は、二人の鑑賞者が感覚の共有や交換を行い、非言語的なコミュニケーションを楽しむことを目的としたインタラクティブ・アートのプロジェクトである。
展覧会では、視覚、聴覚、嗅覚に関わる三つの作品《session 光》《session 音》《session 香》を公開した。全ての作品において、小型の加速度センサーやジャイロセンサーを内蔵した眼鏡フレーム(JINS MEME)を用いた。鑑賞者二人がこの眼鏡フレームを装着し、それぞれが頭を横に振ったり、縦に傾けるなどの行為をおこなう。こうした行為とシンクロして、あたかも楽器を演奏するがごとく、光や音、香りが再生されるシステムとなっている。参加した鑑賞者がもう一人の鑑賞者の奏でる内容(光、音、香)を確認しながら、自らが奏でる内容(光、音、香)を重ね、両者のあいだに交じり合いや掛け合いなどの応答が生まれる。このコミュニケーションがうまく成立し両者が快を感じること、これこそがセッションの楽しみであり喜びであろう。
本プロジェクトは、人と人との「あいだ」に着目し、人の身体的行為と感覚のフィードバックを通じて、「生」の時間との接続を模索するものある。医学者で精神科医の木村敏は、音楽演奏行為における第一の契機、すなわち持続する現在の時間こそ、人間の生に直接関与する根源的な生命活動であると述べている。『between』各作品におけるセッションの体験は、この「持続する現在の時間」を鑑賞者二人で共有し楽しむことである。またそのことは同時に「人間の生に直接関与する根源的な生命活動」に触れる喜びを味わうことになるはずである。
《session 光》
仰向けになった二人の鑑賞者は、ドーム内に反映するLED照明の光を見ながら、その変化(色彩、明暗、移動、速度、ノイズ音)をコントロールすることが可能である。頭を左右に傾けることで色を変え、傾きの角度によって変化のスピードを変えることができる。頭を上げ下げすると光が移動し、その角度に応じてスピードに変化を与えることができる。
《session 光》では、二人の鑑賞者がそれぞれの行為に基づいて、刻々と変化する光の世界を生み出す。そしてそてぞれが創り出した光の様態を、二人が同時に見ながら調整することによって、光のセッションが成立する。完全に同じ色となるよう調整したり、異なる色の美しい組み合わせを探したり、光の移動の速度や方向を揃えるなど、視覚的刺激に基づく感覚のコミュニケーションを楽しむことができる。
《session 音》
二人の鑑賞者が空間内に向かい合って座り、各々の行為(頭部の傾き)によって、それぞれが選択したメロディーやリズムなどを再生することができる。楽器の演奏ができない人でも音楽セッションを楽しむことができる場を構想したものである。
《session 音》では、あらかじめ5種類の楽曲(計43トラック分の楽器で構成)を用意した。鑑賞者が深く頭を下げると、特定の楽器(トラック)による音(メロディーやリズムなど)が選択される。さらに、頭部の傾きの角度や方向に応じて、音量を変えたりエフェクトをかけることができる。それぞれが別の楽器を担当することによって、二人の奏でる音が重なる。相手の音に合わせて曲を変更したり、音量やエフェクトを調整するなど、相互に応答しながら、刻一刻と変化し続ける音楽を楽しむ。音楽セッションの喜びを体験することができる作品である。
《session 香》
超音波による霧の発生とともに香りが吹き出す、アロマ・ディフューザーのメカニズムを応用した作品である。空間内で向かい合う二人の鑑賞者が、頭の上げ下げによって、香りを発生させるシステムとなっている。「太陽」をテーマとした香りと「月」をテーマとした香り、異なる二種類のオリジナルのアロマを用意した。
鑑賞者は初めに、霧の噴き出し口を見る。その時点で霧は出ない。つまり香りがない。次に、鑑賞者が顔をあげる。すると霧が噴き出し、徐々に香りが感じられうようになる。さらに顔をあげるとより多くの霧が発生し、自らが霧の中にいるような状況となる。仮に相手の霧が多く発生し、自身の霧が少なくなると、相手のアロマ・ディフューザーからの香りが感じられる。またほどよく二つの香りがミックスされた時、新たな香りの次元が成立することもあるだろう。頭を上げ下げするシンプルな行為ではあるが、二人の鑑賞者のあいだの二種類の香りによって、刻々と変化する豊かな香りのセッションが生まれる。