呼吸する空 –breathing sky–

《呼吸する空 –breathing sky– 》は、呼吸を通じて身体と地球を接続する体験型作品の試みである。
本作ではギャラリーの中央にキューブ状の部屋を置き、部屋の外壁には雲の流れる空の映像を投影することで、あたかも大気で作られた「空の家」とでも言うべきオブジェを出現させる。部屋の内部には、霧の発生器と呼吸センサーを設置し、体験者の呼吸に連動して目前の霧の流れに変化を起こす。また外壁に投影する雲についても、体験者の呼吸のリズムに連動してその動きが変化する。こうして、呼吸による息の出入を霧や雲の流動=大気における気流の変化へとリンクさせて、身体と地球の接続へと導く。
私たちが暮らす地球の表面には、重力によって宇宙に拡散することのない空気の層、すなわち大気が存在する。普段実感することはないが、私たちは、窒素78.1%、酸素20.9%、アルゴン0.93%、二酸化炭素0.03%、水蒸気その他約1%の「大気の海」に浸りながら、大気中の酸素を身体に取り入れてエネルギーを生成し、その過程で作られた二酸化炭素を大気へと吐き出している。まさしく私たちは「大気を呼吸」して生きているのである。
しかし地球が誕生して長らく、地球の大気に酸素はほとんど含まれていなかった。今から25億年前から約23億年前にかけて、海中に発生した大量の藻類(シアノバクテリア)が光合成を行ったことで、「大酸化イベント」と呼ばれる事態が起こり、大気中の酸素が急激に増加したと言われている。46億年に及ぶ地球の歴史を振り返れば、酸素を吐き出す生き物すなわち「光合成を行う生命」の繁栄こそが、酸素を活用する生き物すなわち「呼吸する生命」の繁栄を促し、共存共栄したことがわかる。一方、酸素濃度の上昇は大気圏にオゾン層の形成をもたらした。オゾン層は、生命にとって有害な紫外線を吸収する地球のシェルターである。このシェルターなしに、人類を含む多種多様な生物が陸上に存在することはなかった。 私たちが今ここに存在し呼吸していること、この当たり前の事実は、地球史における大気組成の変化がもたらした奇跡なのだ。自らの呼吸と大気の運動を関連づけることによって、地球(環境)と身体(生命)との根源的な繋がりを再発見する契機としたい。それこそが本作品の意図するところである。

展覧会情報

日程
2025年3月7日(金)ー3月12日(水) 11:00ー17:00 (月曜休廊)

会場
堀川御池ギャラリー
〒604-0052 京都市中京区油小路通御池押油小路町 238–1
* ギャラリーには、一般利用者の駐輪場・駐車スペースはございません。
自転車・バイク・車でのご来場はご遠慮ください。公共の交通機関をご利用いただきますようお願いいたします。

体験展示

《呼吸する空 –breathing sky– 》では、鑑賞者ご自身の呼吸と連動した作品を体験いただけます。
*3月7日(金)の作品体験は、難病患者の方の予約を優先させていただきます。

プロフィール

森公一
1958年大阪生まれ。大阪教育大学大学院教育学研究科修了。大学院在学中よりビデオアートの研究を始め、映像ディレクターとして数多くの作品制作に携わる。1990年代には《Cosmology of Kyoyo》などのマルチメディア・コンテンツの企画・制作を手がけ、2000年以降は真下武久と協働でヒトの生体情報を用いたメディアアート表現の研究を行なう。現在は人新世の時代状況をふまえ「地球」 「呼吸」「植物」などに注目したアートプロジェクトに取り組んでいる。
真下武久
情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科修了。メディアアートの分野を中心に作品の研究・制作を行う。アルス・エレクトロニカ・フェスティバル(2004年)、光州ビエンナーレ(2006年)、サンダンス国際映画祭(2011年)などの国際展に参加。森公一と協働で、脳波や脳血流、呼吸などの生体情報を体験者へフィードバックさせる作品を制作。グラフィックデザイナーや現代美術家、映像作家とのプロジェクトや作品制作などを行う。

お問い合わせ
同志社女子大学メディア創造学科事務室 0774-65-8635

制作  森公一、真下武久
研究  木村静
協力  和泉 美枝、眞鍋 えみ子、長谷川 昇、The Third Gallery AyaNPO法人てんびんSTUDIO AQA, 同志社女子大学、成安造形大学
助成  同志社女子大学研究助成金(共同研究)