sphere
地球は人にとって外部なのか?
人は地球にとって異物なのか?
アポロ11号の乗組員であったマイケル・コリンズ司令船操縦士は、大気圏外から地球を眺めたとき「本当に驚いたのは、それが儚げな雰囲気を醸し出していたことだ」「その理由は、わからない。今日に至るまでわからない。ちっぽけで、輝いていて、美しい、ホームであり、壊れやすい感じがしたんだ」(The New York Times, 2019.07.16) と語っている。自分の住処は家や町や国である以前に、それらを支える地球である。マイケル・コリンズはなによりもまず、地球の外から概観することによって、この地球こそが私たちのホームであることを実感したのである。故郷を離れた時にこそ故郷を想うことができるように、地球の外からホームとしての地球を想うことができる。人新世の危機的な時代にあって私たちができることの一つは、地球を外から想像する能力を育むことではないか。そこで本展覧会では、こうしたイマジネーションを促す二つの練習課題《atmosphere》《egosphere》を提案することにした。
《atmosphere》
《atmosphere》呼吸と地球の関係性をテーマとする体験型のアートワーク。呼吸を光と音に変換することで、吐く息と吸う息を美的に再発見すると同時に、大気=極薄の空気の層に覆われた地球を想う。これが本作における練習課題である。
1日24時間、1年365日、この世に生を受けてから死の瞬間まで、私たちは呼吸し続ける。生きていることとは呼吸することであり、呼吸することは生きている証である。だが、かつて地球に酸素はなく、呼吸する生物は存在しなかった。今からおよそ25~23億万年前、光合成を行う生物(シアノバクテリア)が大繁殖したことで、酸素が大量に吐き出され(大酸化イベント)、現在へと繋がる大気組成が作られたのだ。呼吸をはじめとする生命維持システムは、こうした数十億年におよぶ地球史の痕跡である。呼吸について考えることは、重力によって宇宙に拡散することのない地球の大気を前提としながら、自らの身体に刻まれた生命の奇跡に思いを馳せることなのだ。
《egosphere》
私たちの故郷である地球との向き合い方について言葉を通して考える、アーティストブック。研究者や専門家は、何十年も前から私たちの生活習慣がもたらす地球への悪影響について警告を発してきた。それなのに私たちは毎年、経済をより活発にする(元気付ける)ために尽力し続けている。その結果、気候変動や地球温暖化、自然の汚染と破壊の状況は年々悪化している。今や私たちは、地球を破壊することを自覚しながら何一つ変えることなく日々を送っているのだ。このままでは、人間が生き延びるために必要としているecosphereを自らの欲望egoによって破壊することになる。
この重大な自滅の危機に関する情報提供があるにも関わらず、行動を起こさないのはなぜか。言葉は、思考の軸であることを前提に日本語、ドイツ語、英語の3言語を文字で可視化し、考察を共有する、ひとり実験。
展覧会情報
日程
2023年2月24日(金)ー3月5日(日) 11:00ー18:00 (月曜休廊/最終日は 17:00 まで)
会場
堀川御池ギャラリー
〒604-0052 京都市中京区油小路通御池押油小路町 238–1
* ギャラリーには、一般利用者の駐輪場・駐車スペースはございません。 自転車・バイク・車でのご来場はご遠慮ください。公共の交通機関をご利用いただきますようお願いいたします。
体験展示
《atmosphere》では、鑑賞者ご自身の呼吸を、光と音に変換する装置を体験いただけます。
ご希望の方は、下記の体験可能日においでいただき、スタッフにお申し付けください。(先着順)
2月
25(土)13:00-17:00
26(日)13:00-17:00
3月
4(土)13:00-17:00
5(日)13:00-17:00 *特別プログラム「ぬんさんと楽しむ呼吸」
所要時間:15-20分程度
本装置は2名同時に体験いただきます。
1名でご参加の場合はスタッフとともに体験いただきます。
希望者多数の場合はお断りすることがあります。
*3/5(日)は、特別プログラム「ぬんさんと楽しむ呼吸」を開催します。ヨガ・瞑想講師のぬん(榊原慶祐)さんにリードしていただきながら、呼吸による光と音の合奏を楽しんでいただきます。なお本プログラムは、リハビリテーションの可能性を探るために、事前に招待させていただいた難病患者さんの体験を優先させていただきます。空き時間、キャンセルが出た場合には一般の方の体験も可能です。
パフォーマンス「アリアドネの糸になれないかしら。」
2023年3月4日(土)11:30–18:00
物を繕ったり修理したりすると、自分の中で物との関係が変わります。 人との関係も変わるとも言われています。
繕いと修復は昔からある古い習慣ですが、今日ではあまり人気がありません。
現在の環境危機や人間の共存の問題を考えると、私たちの世界は何らかの〈直し〉を切実に必要としているようです。
圧倒されるような課題です。
迷路です。
しかし、テセウスにミノタウルスのいる迷宮から抜け出す方法を示してくれたのは、単純な糸、アリアドネの糸でした。
この糸のように、簡単な解決があるとしたらどうでしょう?
糸を使って服を繕いながら、物と人の関係、そして人と人の関係を〈直し〉始めませんか?
一穴ずつ?
当日は、ビジターが持参する服の穴を直すパフォーマンスを行います。
直したい靴下などを持ってきていただけましたら大歓迎です。*
パフォーマー:Bianca Beuttel
ドイツ生まれ。木工工芸専門学校(家具専攻)卒業。 オッフェンバッハ造形大学(ドイツ)プロダクト・デザイン学部卒業。DAAD(ドイツ学術交流会)奨学金で来日。日本のパッケージデザインの魅力を記事やワークショップ、展覧会を通じて伝える。2018年から環境問題も配慮するパッケージデザインにコミットしている。なるべくあるものを再使用するデザインを目指す。
* 注意:
清潔な衣類のみご持参ください。(状態によってはお断りいたします。)
修繕が目立つ、ダーニング系のお直しになります。
満足のいく結果が得られなかった場合、または衣類が破損した場合、損害賠償請求はできません。
プロフィール
森公一
1958年大阪生まれ。大阪教育大学大学院教育学研究科修了。大学院在学中よりビデオアートの研究を始め、映像ディレクターとして数多くの作品制作に携わる。1990年代には《CosmologyofKyoyo》などのマルチメディア・コンテンツの企画・制作を手がけ、2000年以降は真下武久と協働でヒトの生体情報を用いたメディアアート表現の研究を行なう。現在は人新世の時代状況をふまえ「地球」
「呼吸」「植物」などに注目したアートプロジェクトに取り組んでいる。
真下武久
情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科修了。メディアアートの分野を中心に作品の研究・制作を行う。アルス・エレクトロニカ・フェスティバル(2004年)、光州ビエンナーレ(2006年)、サンダンス国際映画祭(2011年)などの国際展に参加。森公一と協働で、脳波や脳血流、呼吸などの生体情報を体験者へフィードバックさせる作品を制作。グラフィックデザイナーや現代美術家、映像作家とのプロジェクトや作品制作などを行う。
髙木毬子
ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。ドイツ・ブラウンシュヴァイク美術大学で博士号を取得。日本文化、文字体系、タイポグラフィ、バウハウスなどに関する11冊の本の著者であり、デザイナーでもある。国際的なデザインコンクールでの受賞作多数。様々な文化を共有し、多様性、環境問題、コミュニケーションに焦点を当て、わかりやすさを大事にしつつ研究内容を文字とデザインで表現している。
お問い合わせ
同志社女子大学メディア創造学科事務室 0774-65-8635